NAIST 情報科学研究科の受験を考えている人に(2)
--- TK くんとの手紙 ---

この文書は奈良先端科学技術大学院大学(奈良先端大・NAIST)の情報科学研究科に出 願を考えている人・迷っている人・行く気満々の人に向けて書かれています。奈良 の生活というよりは、入った後の研究生活について、大学を変わることの不安などを取 り除けたらというつもりで書いています。

本シリーズ2回目は大学時代の後輩筋に当たる人で、出身や大学院に来る経緯も 似ている人からメールをもらい、2008年のスプリングセミナーに来てもらって NAIST の紹介をしたやりとりについて紹介します。彼は自分と同じく文系から 自然言語処理学講座を希望しているので、同じ境遇の人もいるでしょうし、 参考になるなら、ということで掲載を快諾してくれました。どうもありがとう ございます。 これを読んで参考になった、ここは自分の考えと違う、これをもっと知りたい、 などありましたら mamoru-k (a) is.naist.jp までメールください。

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目次

1通目の手紙(2008年5月22日) -- NAIST と他の大学の比較

# 言語学や情報科学に興味があり、その方面への進学を考えている、というメールへの返信です。
# 具体的には
# (1)東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻
# (2)東京大学大学院情報学環
# (3)奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科自然言語処理学講座
# の3つを検討していたそうです。

メールどうもありがとうございます。こちらこそ参考にしてくださってなによりです。

興味のあるところ、非常に似ていますね。自分は前期課程で1年留年(註1)していて、 言語情報(註2)は1年目の進降り(註3) の時希望 (そもそも単位が足りなかったので進振り対象にならなかったようですが)、 2年目の進降りのときは1回目 広域システム(註4)、 2回目科哲(註5)を希望しました。 あのときは情報系で文3(註6)から行けるところは広域くらいだったので、 科哲も行けるか分からなかったので広域希望しましたが、 結局科哲に決まったのでよかったです。

入学当初は言語哲学の研究がしたくて野矢先生(註7)のところに行こうかなと 思っていたのですが、結局大学院来ることにして卒論は岡本先生(註8)のところで 書きました。飯田隆先生金子洋之先生も非常勤で来られていたり、 駒場は言語哲学の研究するにはけっこう充実していましたね。

言語情報でも加藤恒昭先生(註9) や伊藤たかね先生 は学会でもよくお会いします。確かうちの研究室とも共同研究のような形で辞書作りをしています。 学環でいまも教えていらっしゃるか分かりませんが、金沢誠先生 は去年チェコの学会でお会いしましたよ。割とこのあたりは業界狭い(日本全部で 研究者400人くらい?)ので、 どこに行っても会う人には会うのではないかと思います。

まあ、そのあたり詳しい話はまたお会いしたときにでも……


  1. 東京大学では新入生は最初の2年は前期課程と呼ばれ、全員教養学部に所属する。 その後1年半の成績を元に文学部や工学部といった学部に進学していく。
  2. 東京大学教養学部言語情報学科のこと。言語学に興味があれば、 東大では本郷の文学部言語文化学科言語学研究室国語研究室 もしくは英語英米文学研究室 あたりに進学する。
  3. 「進学振り分け」の略。教養学部では入学後1年半の成績順でその後進学できる学科が決まる。 入学時は文1,文2,文3,理1,理2,理3と6つのコースに分かれていて、文1から法学部、文2から経済学部、 理3から医学部は全員(単位さえ足りていれば)進学が保証されているのに対し、文3と理 1,理2の学生は絶対に進振りを経験する。人気研究室は点数が高いので、進学が希望通り行かないこともある。
  4. 教養学部の広域科学科広域システム科学。文理融合型の学科。主に理科系からの進学を受け付けているが、 年2名まで文科系からの進学を認めていた。 ちなみに文科系からの進学には当時100点満点中70点台後半が必要であった。
  5. 教養学部の基礎科学科・科学史科学哲学分科。 基礎科学科は他に生物系・物理系・化学系・数学系の分科がある。 基礎科学科のうち科学史科学哲学は文科系からも理科系からも進学できる。文科から進学する場合、 80点台が必要なので、けっこう厳しかった(自分も運がよかった)。
  6. 理学部情報学科に進学できるか問い合わせたところ、前期課程で文科系の人は実験を履修していないので、 カリキュラム的にどうやっても進学は不可能、ということであった。理科系から文科系に行くには実験の単位を 読み替えたりすれば行けるらしい。
  7. 野矢先生は自分の在学中は科学哲学の所属だったが、今は大学内で所属が変わったらしい。 タヌキのような人で好きなのだが、ぼんやりしているように見えて、哲学に関するツッコミは鋭い。 前期課程の授業で「記号論理学」「科学哲学」を担当していて、 その縁で自分は科学哲学に進学することを決めた。
  8. 岡本先生の専門は科学技術史で、卒論はこういうことがやりたい、と指導教官決定ミーティングのときに 言うと、岡本先生に決まった。ちなみにテーマは「台湾植民地期の言語政策」であった。
  9. 加藤先生との出会いは前期課程の「一般言語学」という授業まで遡る。 HPSG とか最近の言語学について解説する授業だったのだが、 加藤先生の出身が工学部だというのを試験直前に知ってびっくりした。 文系ではスライドを使った授業というのもほとんどないので、OHP を使った解説も新鮮だった (NAIST は99%の授業がスライドを使うのでさらにカルチャーショックだったが)。 言語学を大学で勉強する一番のきっかけはこの授業だったので、加藤先生は自分の恩師である。

2通目の手紙(2006年5月23日) 経済的な不安・就職先について --

# 前のメールでオープンキャンパスには来てくれることになったのですが、
# 留年をしているので年齢的に卒業後の就職と在学中の生活費が心配である、
# という相談を受けました。

なるほど。自分も浪人1年留年3年(前期3年+後期4年在学)で、入学したときは26 歳でした。たぶん在学期間は似たようなものかな? と思います。

大学院まで来ると年齢とかあまり関係なくて(特に大学に残ったり研究所等に就 職する場合)、自分も別に不利益を感じたことはないですね。工学特有の事情か も知れませんが(言語情報とか情報学環に行くと違うかも)。工学の場合は文系と 違って修士でも博士でも出たあと就職先がないという状況には基本的にならない ので、就職したいときに就職できると思います。(もっとぶっちゃけた話、博士 号取らなくても就職できるので、進学したあと「これは向いていない」と思った ら就職に切り替えることすらできます。まあ、そのぶんプログラミングとかはで きないとだめですが……)

NAIST では、というよりは松本研は新入生募集 に書かれているように(修士の人でも相談すれば)年間120万円くらいは支援して くれるので、これと学費免除を使えばなんとか生活できるとは思います。生活費 安いので……(寮は月1万円、交通費ゼロなので) 日本学生支援機構の奨学金(貸 与)もたぶん借りられて、これは在学中の業績がよければ返還免除になります(註1)。

自分はこちらの奨学金ももらっていましたが、手をつけず研究室の共同研究アル バイト代とか(註2)で生活していて、卒業(ドクター進学)後返還免除になったので、 200万円ばかり手元に残りました。これは NAIST の話だけかもしれませんが、ド クターに進学する人は大体半額もしくは全額免除(註3)になるようです(就職する人は厳しい)。

松本研に関して言うと(贔屓目だとは思いますが)日本の自然言語処理の研究室で は最大級の規模(たぶんここより単体で大きいのは東大の辻井研究室 くらい?)です(註3)し、お金はかなり余裕がある(註4)ので経済的には困らないんじゃないかなと思います。 来る前にノートパソコンとかデスクトップとかは絶対買わない方がいいです(新しい のを買ってもらえるか、余っているのを貸してもらえます)。 自分もこちらに来てから計算機には自分のお金は使わなくなりました。

ドクターに行くつもりかどうか分かりませんが、ドクターに行くのであればそれ なりに意識して準備していれば日本学術振興会の特別研究員 (通称学振)になれる可能性はありますし、通れば最大3年間月20万円のお給料がもらえるので、 お金に関しては困らないかな? と思います。松本研の学生はいろいろ研究がんばって評価さ れているので、常に誰かがもらっているような感じ(註4)です(現在は自分がもらって います)。

まあ話は尽きないですが、奈良まで来てもらえればもっといろいろ話せると思い ます。


  1. 以前日本育英会だったころは「免除職」と言われる教育・研究職に一定期間就けば借入金の返還が 免除されていたが、日本学生支援機構に移管されてから、業績優秀者を対象に、貸与が終わった時点で 返還を免除する制度になった。ちょうど自分が大学院に入学する年(2005)から始まった制度のようである。 業績は大学・研究科単位で内規があり、NAIST では学生に対して国際会議発表が何点、論文誌掲載が何点、というように示されているので、大体 どういうことをすれば業績としてカウントしてくれるか(逆に言えばいくらやっても業績にならないことは なにか)が明確に分かる。
  2. こういうアルバイト(ティーチングアシスタント、TA もしくはリサーチアシスタント、RA)があるかどうかは研究室によりけりなので、 あるかどうかは入学前に確認しておいた方がよい。自分はロボットに組み込む自然言語処理プログラムの 共同研究を手伝っていた。現在募集があるアルバイトは「顔文字認識プログラム」「ブログの文分割( 認識)プログラム」といった感じで、研究そのものではないが、自然言語処理の技術を使ったなにか、 というアルバイトが散発的にあったり、共同研究で年度ごとに長期でアルバイトできることもある。
  3. 具体的にどれくらい優遇されているのかは分からないが、ドクターの入学試験の成績が評価項目に 入っている(そしてそれがかなり高いウェイトを占める)ので、就職する人はこの項目の点数がゼロになる ことを考えると、かなりゲタを履かせてもらっていると思う。
  4. 東大でも辻井研・中川研田中(石井)研)と3つの研究室があるが、 1つの研究室がコンパクトに詰まっているところが NAIST のいいところだと思う。 他にも1つの大学の中に複数の自然言語処理関係の研究室が存在する大学は筑波大学 宇津呂研山本研藤井研や東京工業大学 奥村研徳永研などがある。
  5. 現在複数の科学研究費補助金(通称科研費)の交付を受けているので潤っているが、2010年度にそのうちの大きなものがどんどん切れてしまうので、余裕があるのは2010年までかもしれないが……。どのようなテーマで助成を受けているか・どんな共同研究先があるかについは研究助成にまとまっている。

3,4通目の手紙(2008年5月26,27日) -- 研究職・言語学と工学の間 (1)

# オープンキャンパスに来てくれて、情報系の就職事情などの話をしたあとのメールです。
# (一部順序改変してあります)

就職に関しては、たぶん(理系の)大学院に来てから就職できるところと、学部卒 で就職できるところは違うでしょうから、単純に比較はできませんが、技術系へ の就職をしたいのであれば NAIST に来る方が近道でしょうね(註1)。IBM なんかでも 文系就職もある(註2)ようですので、あまり変わらないかもしれませんが……

あと研究に関してでは文系だと研究を続けたいなら大学に残るしかないですが、 工学だと独立行政法人の研究所や民間の研究所に行くという選択肢もできるの で、単に(言語学的な)研究したいというのでも門戸が広いという利点もありま す。博士をしっかり出られたら松本研の卒業生なら(大学の助教のポストは空い ていないかもしれませんが)民間の研究所も入れるとどこかの研究職には入れる んじゃないかなという感じです。

具体的な研究所としては、

なんかがすぐ思いつきます。(もっと応用寄りでは Google(註9)、 もしくは Yahoo! Japan 研究所(註10)、海外でもよければ Microsoft Research (註11)などなど)

まあ情報系の就職(ソフトウェア開発?)がしたいのであれば、NAIST は東大の理 工系と同じくらいに扱ってもらえるので、そんな気にしないでいいとは思います が……。

> 自然言語処理講座の研究内容自体は、言語学の文法理論が果たしている役割が
> 思っていたより小さい印象を受け、そういう意味では残念ではありました。

そうですね、これは松本研が、というよりは自然言語処理自体がそうなんだと思 います。ただ、どちらかというとこれは自然言語処理の問題ではなく、言語学の 文法理論のうち、計算機に乗る形で実現できる文法理論が少ないせいだと考えて います。反証不可能 な文法理論、もしくは反証可能で(実データに適応すると)例 外だらけで棄却されてしまう文法理論、というものがたくさんあり、計算機によ る理論の検証で生き残っている文法理論が少ない、というだけなのかなと。

個人的には計算機によるテストに生き残った文法理論のほうが生き残れない文法 理論より「強い」と思っているので、そういう検証可能性のない理論は今後(研 究者がいなくなるなどして)淘汰されていくのかなと予想しています。まあ、現 在の計算機の性能では実現できない、というのと、原理的に無理(人間でも区別 不能)というのとは違うので、前者まで棄却する危険性はありますが。そうなる と人間と同じかそれ以上の処理能力を持った人工知能(人間の脳を模倣した処理 系)を作って言語処理させる、という方向に行くのかも分かりません(実際松本研 でも留学生の人ですがそういう研究をしている人もいます)。

現在の流れとしては文法は計算機処理に合った文法理論、依存文法(dependency grammar)が集中的に研究されています。特に松本研は世界に先駆けて dependency parsing の研究をしていたので、世界中の論文から松本研の論文が 引用されています。dependency parsing の研究(HPSG から dependency grammar への変換といった研究もよくあります)したいなら、(言語学系も含めて)世界で 一番優れている研究室の一つと言えると思います。

あとは HPSG や CCG (Combinatory Categorial Grammar)、 TAG (Tree Adjoining Grammar, 木接合文 法) といった文法理論の研究もこの分野では盛んです。HPSG に関しては辻井研がよく研究しています。 HPSG ベースの研究がしたいなら辻井研に行くのがいいと思います。 (計算機寄りという意味では文脈自由文法やそれの確率版の PCFG も盛んですね)

> あと、NAISTを見たことで、自分の中の東大への愛着も実感しました...。

雰囲気に関してはそういうところの直感は割と正しいこともあるので、じっくり 考えて決めてください。まあ両方受けておいて最後決めるというのもありかとは 思いますが……

どういう経緯で7年間大学に在学されていたのかは分かりませんが、自分も東大 を離れることに抵抗はあって、やっぱり最初は東大と京大くらいしか見ていませ んでしたが、NAIST のことを知って、オープンキャンパスで松本先生に会って、 やっぱり松本先生と話したのが一番大きかったですね。あそこまで人格の優れて (元々数学科に行こうと思っていたそうなので、数学はとてつもなくできるんで すが)人文系の人にも信頼されていて研究もすごい人は東大でも見たことないで すね。松本先生のところにいられるだけでも自分は来た価値ありました。 やはり学部までと違って大学院だと先生との関係が密になる(これも来る前はそんな深く考え ていなかった)し、大学に残るとなると一生つき合っていく可能性もある人なの で、人格的にも優れた人のところに行った方がいいんじゃないかな、と思います。

あ、あと留年長い人特有のことかもしれませんが、自分も東大に残る安心感はか なりありました(文系の院なら代ゼミの住み込みチューターも続けられる(註12)ので学 費とかの心配もなかったし)が、「このまま東大に進んだらたぶん同じこと(= だ らだら勉強して少しだけ最後がんばって論文書くくらいで学生生活お茶を濁し、 結局就職もうまく行かない)の繰り返しになる」と思って、NAIST に来たという のもあります。実際それでいい方向に人生変わったので、思い切って来てよかっ たですけど、あそこであっち行っていたら(年齢的にもラストチャンスなので)人 生終わっていたかも……と思ったりもします。

とりとめもなく長く書いてしまいましたが、来るにせよ来ないにせよ奈良に来て 参考になったと思いますので、最後はフィーリングで決めてください(笑)


  1. NAIST は情報系なので理系就職になる。学校推薦もあるが、最近はほとんど 「ジョブマッチング」という制度になっているので、推薦にはあまり意味がない。 (ジョブマッチングでは従来「会社見学→推薦状取得→面接→内定」だったのが、 「会社見学→面接→推薦状獲得→内定」になるので、ほぼ自由応募) とはいえ、学部文系の人でも理系就職している(ここ数年自分の研究室の修士を出た 文系の人はジャストシステム・IBM・任天堂といったところに就職している)ので、 選択肢は広がると思われる。
  2. 最近は大学3年もしくは修士1年の夏および冬に数週間-1ヶ月程度のインターンシップ を開催する企業も多いので、意中の企業がある場合は積極的に情報収集してインターンシップ に行くことをお勧めする(大体外資系企業ではインターンシップに来た人の7-8割がそのまま 入社する)。また、意中の企業がない場合でも職種を知ったりするいい経験になる。 自分のインターンシップ経験はMicrosoft Research でサマーインターンに書いた。
  3. 大学4年生のときに「話し言葉コーパス」というプロジェクトでプログラミングのアルバイトを したことがあり、それがきっかけで自然言語処理の研究に携わることになったので、 なにが人生関係するか分からないものである。現在は日本語書き言葉コーパスというプロジェクト に関わっている。
  4. 最近組織が再編され、 知識処理グループ言語基盤グループ・言語翻訳グループ が活発に活動している。NAIST から近いこともあってときどきアルバイトの話もあったりする。 ちなみに NAIST の言語科学講座に入学すると、 夏休みはここで実習することになる。
  5. あちこちに研究所があるが、自然言語処理関係は関東にある。 現在 M2 の人も1ヶ月程度インターンシップをしてきたらしい。
  6. 自然言語処理に関係する研究は自然言語処理グループ知識処理研究グループ で行われている。NAIST のコミュニケーション科学講座に入学すると、 ここで研究することになる。こちらもインターンシップを募集している。 NAIST が近いこともあり、自然言語処理学講座(松本研)に社会人学生として入学する人も多い。
  7. 音声翻訳を中心に研究しているグループだが、最近は組織再編でメンバーが抜けたりなんだりと しているらしい。
  8. 自然言語処理系の研究と機械学習系の研究などあるようだが、サービスとしてはテキストマイニング(TAKMI) などに使われているようだ。現在社会人学生(D3)の人が松本研に1人いる。
  9. 最近急速に新卒採用している言わずとしれた検索エンジン企業だが、 Namazu など作者の 高林哲さんMeCab など作者の 工藤拓さんは松本研の出身である。 東大辻井研や東工大奥村研究室の人など、自然言語処理の修士・博士の人がけっこう入社している。
  10. 2007年に立ち上がった新しい部署で、現在のところ新卒採用はしておらず、 経験者採用しかないらしいが、松本研出身の山下達雄さん はこちらの所属である。
  11. 前述のインターンシップの記録はシアトルの Microsoft Research に3ヶ月インターンシップに行ったときのものだが、毎年自然言語処理グループでインターン生は 10人くらい訪れるので、興味があったら応募してほしい。 自分の翌年には名古屋大学の萩原さんが行った(萩原さんは修士2年のときアメリカの Google 社でもインターンをしている)。

6通目の手紙(2008年6月11日) -- 研究職・言語学と工学の間 (2)

# 言語学と工学の間の話と就職の話が並行して進みます。
# NAIST の卒業生の具体的な進路については進路状況 にあるので、これをいいと思うか悪いと思うか、ですが……

> 残念だったのは、工学が言語学理論を活かせていないというより、
> 言語学の理論が工学的使用に耐えない、少なくとも統計的手法に劣る印象を受けたことでした。

劣るかというとそうでもないんですが、英語や日本語のように例外がたくさん出 てくる言語では、統計的な手法のほうが流行っている、というくらいですね。た とえばフランス語では言語学的に規則を書いていく手法が主流です。たぶん正書 法が確立していたり、prescriptive な言語学が発達しているところだと統計的 手法より言語学的アプローチの方が好まれるのではないかと思います。言語学理 論はどうしても例外に対して目をつぶる傾向があり(もしくは全体からするとほ んの少ししかない現象にこだわったり)、それが実使用に耐えない原因ではない かと推測します。

まあ、人間が理解するためには思い切った一般化が必要だったりするので、理解 するための言語学と処理するための言語学が違うということなのかもしれませ ん。よくある比喩としては、空を飛ぶには鳥になる必要はないし、鳥がどうやっ て飛んでいるのかも理解する必要はなく、飛行機のような方法でも飛ぶことはで きるし、鳥より遙かに高速に飛ぶことができる、といったような感じで、計算器 処理には計算器処理のいいところも悪いところもあります。といっても相互に完 全に切り離されているわけではなくて、情報交換することもあります。

> 駒場の言語処理の授業だと、言語学の理論をコンピュータに実装するような内容なので、
> 文系の学問が技術に結びつく面白い分野だと思っていたのですが、現状はそうでもないようですね。

駒場の授業は確かにそうですが、問題としては toy problem であって、なかな か現実とは違いますね。自分も駒場の授業で lisp や prolog を使って HPSG み たいのを実装したり述語論理みたいのを実装したりしておもしろいと思ったの で、気持ちは分かります。実際はもっと進んでいる(駒場の授業でやるのはたぶ ん自然言語処理的には1970年代かそれ以前の内容?)ので、それをおもしろいと思 うかつまらないと思うのかは人それぞれですが、それがいわゆる「お勉強」と 「研究」の違いなんだと思います。

> 今のところは、情報系の研究所(ソフトウェア開発を含む)への就職が希望です。
> NAISTが東大理工系と同等の扱いというのは、ちょっと疑問もありますが(笑)

同じ扱いというのは語弊がありますが(どちからというと就職サポートなんかも 入れると東大より NAIST のほうがいいような気も……それは東大より早稲田慶応 のほうが企業に受けがいいというのと同じような意味なので、喜んでいいのかど うか分かりませんが)、アカデミックなところ以外への就職だと東大は必ずしも よくないし、入ったあと幹部候補としてしごかれるか、もしくは叩かれて鬱に なったりすることもあるので、就職はいろいろ考えた方が思いますけどね。そん な世の中東大生みたいな人たちばかりではないので……。

今年 Google を受けた人に聞いたところ、関西で Google の面接に残ったのは京 大と阪大と NAIST のみだったそうです。関東でも東大・東工大ばかりで、慶応 や早稲田で書類選考を通過できたのは未踏・未踏ユース(註1)やらで対外的な活躍が あった人のみで、それ以外は学歴フィルタされてしまっていた、とのことです。 関東での(特に情報系・バイオ系以外での)知名度は非常に低いですが、情報系の 大企業なら非常に高く評価してもらっているみたいですよ。(自分もこっち来るまで知ら なかったので人のことは言えませんが)

あと去年の話ですが東大の理学部情報科の修士の卒業生、就職・進学先は4箇所 のみで、東大の博士課程に進学するか、Google に入るか、IBM の東京基礎研に 行くか、PFI就職するか、の4つ以外の人はいなかっ たそうです。

情報系の研究所だと大企業で評判がいいのは IBM か NTT か、ってところですね。 インタフェースだとソニーの研究所もあります。

# 「コンピュータでの文章の読み書き(あるいはもっと一般的に知的作業)を便利に」
# というようなことに関心がある、という話が出たことへの返信です。

いまはブラウザで全部やる方向で進んでいますからね。Google も Microsoft も ブラウザからオフィス系アプリを使えるようになりました(註2)し、ブラウザ上に OS 作るみたいな話もよく聞きます(註3)。未踏でもよくそういうネタが出ているので、ネ タがあるなら M1 のとき出すことも考えてみてはいかが(註4)でしょうか?

NAIST は入試のときの希望研究室と入ってからの配属希望と別でもいいし、入学 してから2週間くらい考える余裕があるので、インタフェース系がしたいのであ れば、適当にどれか決めて受験するだけでもいいと思いますが……。入学してから 講座の説明会週間があって、全体の説明会が1回、個別の説明会が研究室ごとに それぞれ2,3回あるので、入ってから決めることもできます。あと配属先が合わ ないなどあれば、3ヶ月ごとに研究室を変えることができますし、研究テーマが 似ている研究室なら行き来は簡単なので、そこはあまり悩まないでいいように思 います。

言語寄りの文章の読み書き支援、という話だと Microsoft は Word や Excel を 持っているのでこの分野の研究は一番強いですね。Microsoft Research に特別 にグループがあります。あまり辞書や文法サイズを大きくできないとか、高速に 動作しないといけないとか、本当に他の人に使ってもらえるソフトとなると、 言語学理論だけではどうしようもないところはいろいろあるようですね。 (註5)

松本研でも3年前から「言語教育」 という勉強会が発足し、松本先生もかなり力を入れています。今年の学内プロジェクト (註6)でもM1 の3人が自分たちで「ブログを通じた文章添削支援」というようなテーマで採択され、 先月末から最大150万円研究費ついて自分たちで研究していますよ。 言語処理学会という国内最大の学会では今年言語教育のワークショップ教育・学習を支援する言語処理 が開かれたり、論文誌で特集号が組まれる など、自然言語処理でいま一番ホットな分野の一つです。

今回も長くなりましたがこの辺で。ではでは


  1. 情報処理推進機構(IPA)が主催する「未踏ソフトウェア創造事業」のこと。 2008年度からは「未踏IT人材発掘・育成事業 」として継続している。「未踏ユース」のほうは応募する人は26歳までという制限がある (開発研究費も300万円が上限)が、「未踏(本体)」のほうには年齢制限はない。 未踏ユースのほうが倍率3-5倍程度とハードルが低いので、学部生・大学院生であれば ユースに出した方が通りやすいと言える。
  2. たとえば Google Docs
  3. OS ではないが2008年度の未踏でも Web接続型ウィンドウマネージャの開発として採択されている。
  4. ドクター進学希望でない限り、M2 の未踏の開発時期は修士論文と重なっているので、M1 のときにやるのがベストである。 ちなみに自分も M1 のとき共同開発者として未踏ユースに参加していたが、 1月2月は非常に忙しかった。 ドクター進学する人は研究テーマに重ねたプロジェクトで採択されれば一石二鳥である。
  5. Microsoft はこれに限らず言語学のバックグラウンドがある(文系の)人も研究開発に採用している。 詳しくはマイクロソフト 採用者情報 - 研究開発部門採用情報を参照。自然言語処理(かな漢字変換)の仕事などがある。
  6. Creative and International Competitiveness Project (略称 CICP)というプロジェクトで、「魅力ある大学院教育改革プログラム」という文部科学省の予算がついたので、 学生から自分のやりたいプロジェクトを公募し、その中から年間20プロジェクトほど採択して 上限150万円の研究費を支給してプロジェクト実習を行うものである。 パソコンや書籍も自由に購入でき、出張費も出せるので、 こんな制度を大学として学生にやらせているのは非常に珍しい。倍率も2倍程度なので、NAIST に入学した人には超オススメである。ちなみに自分も2007年度統計的なかな漢字変換エンジンの開発 という題目で採択された。

7通目の手紙(2008年6月11日) -- 海外での就職・海外への進学(1)

# 前のメールから研究職に、という話だったので、どういう感じのところを考えていますか?
# と書いたところ、自然言語処理やインタフェースに関係する研究所に就職したい、という展開です。

> 具体的に興味があるのは、Google、Microsoft、NTTコミュニケーション科学基礎研究所、
> ソニーコンピュータサイエンス研究所あたりです。

ちなみに Google (日本)は研究はありません(一応 R&D と言っていますが、 少なくとも自然言語処理で論文を書いたりしている人はいません(註1))。 アメリカならリサーチャーの職種がありますが、研究で入るには Ph.D が必要です。

Microsoft (日本)も開発はありますが研究はありません(註2)。 さらにマイクロソフトディベロップメント(調布にある開発センター)でも、 新卒は Google のような感じで正規には募集していないです 先日聞いたところ 開発者から研究所に行くパスは日本では存在しないそうです。インタフェース の研究なら Microsoft Research Asia (北京) が盛んですが、MSR/MRSA は (Google 同様)研究者として入るなら基本的に博士号を持っていない人は入れま せん。日本よりもっとアメリカは学歴に厳しいので……(註3)

NTT も修士卒で CS 研に入れる人は(昔はともかく)今はほとんどいないみたいです。 修士卒で入れるのは横須賀(サイバースペースもしくはサイバーソリューション) や武蔵野(註4)です。どちらも一応 R&D とは謳っていますが、 基本的に開発だと考えてもらっていいと思います。 開発は NTT レゾナントとかそのあたりの子会社の人と組んでやります。 CS 研に入りたいなら博士まで行かないと難しそうです。

ソニーの研究所には今年就職した修士の人を知っています。 IBM について書きましたが IBM は修士でも研究員採用してくれるようです(逆に 博士から入りたい人は即戦力性が求められるので、相当優秀でないと入れない とのこと)。

> ちなみに、博士課程も就職先も、国内にこだわるつもりはありません。

国外で就職もしくは進学したいなら、修士から海外に行くことを強くお勧めします。 修士国内に来てしまうと本当に損をします。特に工学系だとアメリカの大学 院は基本的に学費免除でお給料までもらえるので、今からでは少し始めるのが遅 いかもしれませんが、最初からアメリカの大学を検討されることをお勧めします。 アメリカでの就職は基本的にアメリカの大学・大学院を出ていることが重要だそうです。

残念なことですが、日本の大学院は東大でもアメリカ基準的には大学院と認めて もらっていないので、日本で修士を取ってもアメリカの大学院に行くときは学歴 的には学部卒にしか扱ってくれないので、M1 からやり直しです。

海外で働きたいと少しでも思っているのであれば、学費はなんとかなるので、今 からでも遅くないですから、アメリカの大学院を探してみてはいかがでしょうか。 これは自分は日本の大学院に来て失敗だったと思ったことの一つです。気が ついたときはすでに M2 で、NAIST なら次 D1 に行けるのに、さすがに M1 から やり直したくはなかったので諦めました。アメリカの大学院は(学部は高いです が大学院は)基本的に学費無料、お給料も年間200-300万円相当くらい出ると学部の 段階で聞いていたら、変な学費のことなんて心配しなかったと思っています。 (註5)

ちなみに博士号を取得しても情報系なら採用枠はたくさんあるので就職は気にし ないでいいと思います。あと博士なら奨学金も必ずもらえるし、学振も最近は 通りやすくなったし、学振なくても月10万くらいは RA/TA でもらえるので、 NAIST にいる分には生活はできます。学振は月20万円お給料もらえるのですが、 TA/RA + 奨学金だと月20万以上になる(奨学金も規定年限内で修了できるような人 は半額、残りは全額免除になるみたい)ので、先輩も含めみんな「手取りが 減った」と嘆いています。まあ、自分も「手取りが減った」口ですが……(註6)


  1. 共著で書いている人はいて、自分も松本研出身の先輩、工藤拓さんと共著で 論文を書いている。Google では年間1回に限り国際会議に出張できるらしい。 (論文リスト)
  2. Microsoft の日本での採用担当の方の話。
  3. 日本の研究所は博士号持っていない人も半分程度いるというのはよく言われる。 ただ最近は博士号持っていないとダメという風潮になりつつあるので、論文博士や 社会人博士が増えているようである。「マル合教員」 で検索してみるとよい。ちなみに「 マル合教員の資格基準は、「修士課程」および「前期2年の博士課程」の場合で論文著書30件程度、 「後期3年の博士課程」「前期2年、後期3年の区分を設けない博士課程」 の場合は40件程度といわれている」(引用 Wikipedia より)
  4. 横須賀の研究所で1ヶ月ほどインターンシップをしたことがあるが、 研究発表と開発のバランスがよいところだという印象で、研究だけしていてもいけないが、 開発もしたい人には合っていると思う。 自然言語処理関係は京都の CS 研と横須賀の SP (サイバースペース)研である。 SP 研には松本研の修士の卒業生と博士の卒業生の両方が就職している。
  5. NAIST にも特待生制度はあるが、各学年3-4人程度の採用で、非常に厳しい。 自分も入試のとき希望したが選ばれず、追加募集での採用となった (しかし年間60万円程度しかもらえないので、これだけで暮らしていくのは不可能である)。 特待生制度については別に書いたNAIST 特待生プログラム を参照のこと。
  6. 工学系の博士課程の人(学生)がどれくらい収入あるかについてはPh.D Fellowship の収入に書いたことがある。このあと学振の研究費は前年まで年間100万円程度だったのが 年間50万円程度に減額されたので、この状況で外部の研究資金に応募することができない (研究専念義務)があるのはつらいのだが、なんともいえない。 NAIST での学振については Road to JSPS -- NAIST versionに書いた。(特に末尾の「学振損得」)

8通目の手紙(2008年6月13日) -- 海外での就職・海外への進学 (2)

# 留学したほうがいい、という部分に続けて、海外の大学の話になりました。

> これは、アメリカのどの辺の大学院を想定されているんでしょうか?
> StanfordやMITのような一流の研究機関でしょうか?
> あるいは、受け入れてくれるアメリカの大学院ならどこでも、ということですか?

アメリカの大学院には大きく分けて2種類あって、採用する学生にはお金も出し て学費も免除して、というふうに支援するところと、お金を払えば在籍はできる が割と広めに採用する、というところがあります。 MIT は後者というふうに聞いています。

なにが一流か分かりませんが、日本のような科学技術の発展の仕方をしていない ので、その分野で有名な研究室であれば、どこに行ってもかなりの研究水準です。 (註1)

> 自分としては修士では基本的な勉強を重視したいので、研究機関として評価の高い
> (けれども既にかなり勉強済みであることを前提としている)ところに行きたいとは、
> あまり思わないんですが。

アメリカの大学院(NAIST の大学院もそうです)はそういう感じではないので、ま ず最初の2-3年は徹底的に基礎をやらされます。博士論文を書いていいという資 格を得るための試験にパスするまでは死ぬほど勉強させられます。ある程度の知性 があれば前提知識がなくてもなんとかなるようなカリキュラムになっています (毎日徹夜したりするはめになるかもしれませんが、それはアメリカ人ネイティブ だってたぶん同じです)。

CMU (カーネギーメロン大学)はそういう意味ではちゃんと教育もしてくれるそう なので、自分も B4 のときに知っていたら CMU/UIUC(イリノイ大学アーバナシャ ンペーン校)/USC(南カリフォルニア大学)/JHU(ジョンズホプキンス大学) くらい は受けたかもなと思います(Stanford とか MIT は日本での知名度は高いですが、 ちゃんと検討するとそんなに飛びぬけてよくはない)。自分がアメリカで会った これらの大学の院生はみんな奨学金もらって授業料免除だそうで、日本は学費払 うのだと言ったら驚いていました。(註2)

> そういえば、機種によるのかもしれませんが、ケータイって日本語しか予測入力が
> 使えないので、英文を打つ時もあればいいのにと、思っていました。

英文の予測入力もあります。PRIME というオープンソースの予測入力(日本語がメインですが)では英語の予測入力ができます。 ただたぶん仕組みが単純すぎるのであまりうまく行っていないです。 英語圏でよく使われているのは省入力方式ですね。 T9 というのが有名です。 気持ちとしてはローマ字で日本語を入力するとき子音だけ入れても曖昧性がない場合、 子音だけ入れればタイプ数を半減できる、そんな感じです。

みたいな。適切な候補を出すには言語モデルというのが必要で、これのサイズが けっこう大きかったりするので、日本語メインの携帯には日本語の言語モデルし か乗せられず、英語のほうは英語しか載せられない、といったような事情だと思 います。(そういうわけで言語モデルの圧縮、効率的な符号化も研究トピックで あり、去年の国際会議でも何件か発表ありました)

ではでは

9通目の手紙(2008年7月3日) -- 海外での就職・海外への進学 (3)

# 出願は終えた、との連絡を受けました。
# 受けるかどうか未確定のようだったので、少し安心しました。
# 海外で働くことについての話が継続しています(数字は一部伏せてあります)
# 出願した、ということで、特待生試験についてもアドバイスしました。

出願したのですね、どうしたのかと思っていたので安心しました。(2回目3回目 目に行くにつれて倍率が上がり、寮にも入れなくなるので、行くか行かないかは 来年の3月までに決めるとしても、まず1回目で受けておいた方がいいのにな、と 思っていました)

突然海外で働きたいと言ってもまず大企業では無理(海外の大企業で働くには、 日本の外資系企業で働いていて親会社に配置されるか、海外で大学・大学院を出ているか、 インターンシップで来たか、の3通りくらいしかない)なので、1回も海外で長期滞在せずに 直接行きたいなら、中小企業に行くしかないです。

どういう採用プロセスだと思っているのか分かりませんが、アメリカの情報系の 大企業の場合、新卒で直接応募してもまず履歴書見てくれません。

たとえば Microsoft では毎週XXXX通世界中から履歴書が送られてくるそうですが、 半機械的に書類でスクリーニングして、次に現地エリアのブランチ(日本だったら 日本とか中国)で2,3回面接し、そして最後にシアトルの本社に来てもらって6,7回 面接します。最終的な決定は本社でなされますが、本社まで来てもらう価値があるか どうかをそれまででふるい落とすわけです。(インターンをしていると、 この面接の回数が全体でY回くらいに減るそうです。)

Google も同様で、Google はさらにすごくて、機械学習で書類選考の第一次スク リーニングしているようで、大半は人間が見る前に落としてしまうみたいです。 (註1) 口コミで紹介したりされたりすると採用されるかなり確率が上がります(どの人 の紹介で来たか、ということを願書に書きます。)。Google は特にオープン ソース系の開発者の採用に積極的で、開発活動で貢献したり、もしくはプログラ ミングコンテストで上位入賞するとリクルーターから「就職しませんか」という オファーが来ます。自分も修士から博士にかけて、Google 本社から2回、Google 日本法人から1回オファーをもらいました(が大学院での研究に専念したかったので、 いずれも断りました)。(註2)

まとめると、海外の大企業で働きたいなら、未踏に通るくらいプログラミング ができるのでなければ大学院は海外に行くべきで、それが無理なら海外のインターンシップ に応募するか、外資系に入るしかない、ということです(コネがない状態で行ける 海外のインターンシップ、有名なのは Google くらいしかないですが)。大企業で、 という条件でなくていいなら、あとは度胸とコネ(コネは大企業でも重要ですが)です。

NAIST の話に戻すと、特待生試験も受けられるのであれば、特待生に選ばれると いいですね。割と特待生は大学名で選んでいる気がします(旧帝大系の人ばかり)が、 こんなことがしたい(こんな研究がしたい、もしくはこんなソフトウェアやシステムを作りたい) というおもしろいアイデアがあれば、そういうのを語ると選ばれると思います。

前言ったかもしれませんが学生の公募型研究があって、松本研でも2件採択され て、1つは D2 の人、1つは M1 の3人組が通って、 お金に関してそれが研究や開発の障害となることは NAIST では存在しないの で、そういうこと考えないでなにがおもしろいことできるか、というのを考える といいと思います。

まあ、英語は入試の点数的には 700点くらいで満点だった気がするので、それ以上でもそんなものすごくプラス にはならないと思いますが、英語ができるから国際ワークショップをホストして みたいとか、入学後ばんばん国際会議に論文書きたいとか、それを活かしたプロ ジェクトや研究をやりたいと言うと(特待生面接的には)ポイント高いです。

特待生試験についていろいろ聞いたところによると、一般的な意味での成績順と いうことはありません。成績が低い人は足切りされるというだけで、一定以上の 成績の人が面接に呼ばれて、そこでどれくらいやる気があるかということが聞か れます。たぶん成績的には問題ないでしょうから、あとはそこから先だと思いま す。「特待生」と聞くと成績順であるように思いますし、実際そう思う人多いと 思いますが、実際は違います。

もう制度ができてから4年目でだいぶ落ち着いて来ていますが、 成績順だという気持ちで面接受けると特待生には必ず落ちるので、いかに自 分がエネルギッシュであり、他の人(NAIST の学生でなにか立ち上げる企画と か、もしくは学外の人に宣伝になるようなソフトウェアを作るとか)にインパク トを与えることができるか、というのをアピールしてください。

自分は今となっては落とされた理由はなんとなく想像はついていて、「博士まで 行くつもりで、修士の間は勉強のつもりだから最初からがんがん活動はできない」 と言ったのがアウトだったんだろうなと思います。仮に M1 は勉強をメイン にするつもりでも、M2 でプロジェクトやってもいいわけですし、とにかくお勉 強ができるとかいうことではどうしようもないので、なにか自分が他の人におも しろいと思ってもらえることができるか、ということを言わないとだめです。

ちなみに特待生の利点は2年間それぞれ60万円のお給料と40万円の研究費(パソコ ンとか本とか自由に買える)、そして年1回の海外旅行(海外のサマースクールに 参加したり国際会議を聴講したり、もしくは単に海外の大学の研究室を訪問した り、とにかく年間20万円程度海外研修に使える)です。

あと、7月11日はどう来るのでしょうか? 前日に来てどこかに泊まるのであれば、 7月10日は夜に特待生の飲み会があるようなので、お誘いしますが……。 特待生選抜に通った人たちなので、どういうことを言って通ったのかは聞けると思います。

7月11日(試験当日)は松本研で19時から カレーパーティー兼飲み会兼論文読み会がありますが、時間が遅いのと、 内容的に機械学習の自然言語処理への応用が多いので、Just FYI ということで。 オープンキャンパスは外部向けなので、 「勉強会」ってどういうものなのか分からないでしょうし、 こういうのに出ると大学院での生活が分かるかなと思いますが……。

ちなみに自分は「勉強会」と聞いて科哲での輪読会を想像していて、松本先生か ら「大学院で勉強したいなら松本研は勉強会がたくさんある」と言われて「(科 哲のような)勉強会がたくさんあっても全然勉強にならないのではないか」と 思っていたのですが、実際は想像をいい意味で裏切ってもらえたので、大学院で の(というか工学系では?)「勉強会」はたぶん想像しているのと全然違うと思い ますし、11日出られそうなら出てみると参考にはなると思います。(11日はお酒 飲むので車でお送りなどできませんので、泊まるつもりで出るか、もしくは9時 くらいに切り上げて深夜バスで帰るか、といったところでしょうけど)

ではでは、7月11日健闘をお祈りします。


  1. ランキングはU.S.News - Best Graduate Schoolsが有名。数字だけ見てもだからどうしたという感じだが……
  2. CMU は松本研の人もよく行っていて、助教の浅原さんD3 のとき海外派遣で CMU の Language Technology Institite に行ったり、 自分の同期の渡邉くんが同じく LTI に1ヶ月訪問研究員として滞在する など、海外の短期滞在は頻繁に声がかかる。また、南カリフォルニア大学およびジョンズホプキンス大学は、 自然言語処理の研究室で夏期のインターンシップ(給料や生活費は支給される)を毎年募集しているので、 興味がある人は学部生院生問わず応募してみるとよい。

10通目の手紙(2008年7月4日) -- 特待生試験対策 (1)

# 特待生について書いたページを見たあとの返信です。

そうですね、特待生は本当に成績はあまり関係ないので、いかに先生方に「こい つはなにかやってくれそうだ」と思わせるかどうかだと思います。

あといまは圧迫面接ではない 可能性が高いです。あれは内部生に対する特別措置 の面接だったので、ひどいことを言っても来てくれなくなるということはないの で、あえてきついことを言ってみた、みたいな感じかなと。

ちなみに自分は入学後に入試成績開示したら(たぶん英語も数学も満点と行かな くても全部解けたしできたつもりだったのですが)あまりよくなかったので ショックを受けました。奨学金ももらえたし寮にも入れたんですが……。特待生面 接にも残りましたが、成績じゃないんだろうなと思います。

過去には留学生と英語で喋る会を企画するというプロジェクトで特待生になった 人がいたり、 子育て支援グループを作るというプロジェクトで特待生になった人 もいたり、必ずしも研究と関係ある必要はありませんが、勉強ができることは全 く評価されないので、そこを理解せずに特待生試験を受けても無駄(というか自 分がそういうことを知って腹立たしかった)なので、老婆心ながらアドバイスし ました。

自分の友人は阪大出て NAIST も受けて特待生に選ばれたのですが、結局 NAIST には来ないで東大に行き、その後就職活動は紆余曲折の末 、結局 Yahoo! Japan に行くこと になり、この4月で退社して、いまはベンチャー企業 に転職しています。修士のころは会うたびに「NAIST に行けばよかった」と言っていましたし、 入ってから(専攻変えたこともあり)研究うまく行かなかったりなんだりと鬱っぽく なったりとしていたようでしたが、まあそういうこともあります。

なんかよく分からなくなってきましたが、まあ上がらず面接に臨めばいいだけか なと思います。

ではでは

11通目の手紙(2008年7月7日) -- 特待生試験対策(2)

# 特待生のプロジェクトとしては、Wikipedia の翻訳プロジェクトを組織する、
# というアイデアを出した彼に対し、コメントしました。

Wiki ベースという意味では特待生でも音楽情報の Wiki を作るというプロジェクトをしている人もいます。日本語の特定分野の Wiki (Wikipedia 含む)を充実さ せるという意味では、KT さんの案はあまり新規性がない感じがします。

メンバーを構成するのは入学後でもいいでしょうが、特待生としてお給料支給さ れたりする学生が関わるのは当然ですが、他のメンバーの参加するインセンティブ というのはなんなのでしょう? ただやりたいと言ってみんなついてきてくれる なら話は簡単なのですが、なにがしかプラスになるものがないとみんな参加して くれないんではないかと思います。特待生予算は謝金という形で他の学生にアル バイト代を出せないものなので、他の人は思想に共感してくれた人がボランティア でやるのでしょうか(それで人がついてくる見込みがあるのでしょうか)?

# それ以外の案の1つ目として、コンピュータ技術の一般向けの解説記事やビデオの日本語版
# を作る、というアイデアも出してくれました。

こういうのはいいですね。一応 NAIST でも授業は全部電子化されていますが、 Google Video や YouTube みたいなところで Google Tech Talk が公開されてい るようには公開されていません。学生が講師となって全世界に発信できる教材を 作る、というのは一つの方向性としてあり(上にテキスト作成と書きましたが、 テキストとビデオと両方作ればなおよい)ますね。

過去には NAIST で(サイエンス系の?)映画を作ったりした人もいますので、 人を探せばそういうのに関して詳しい人も見つかるんじゃないでしょうか。

> 他の案としては、
> - 情報科学・離散数学の英語の教科書を読む会を開く
> - 海外と交流したいと考えている他の人のプロジェクトに参加して、語学面でサポートする
> - 英語のサイトを作って、NAISTの様々なプロジェクトを海外向けに広報する
> などもありますが、どれもイマイチですね。

そうですね、1番目のはすでにみんなやっています。松本研でも一部の人は離散 数学勉強会の教科書は英語版を使っています。自分も英語版を使っていました。 情報科学に関しても SICP という MIT の学部生が使っている教科書があり、英 語版は全部無償公開されているのですが、研究室横断的に勉強会を立ち上げて これの英語版を1年かけて輪読しました。情報検索の Introduction to Information Retrievalという本も半年で読みました。英語で読むというだけではどこでだっ てやっているので、英語で議論するとかプレゼンテーションするとか、発信系を 英語でやらないと(少なくとも特待生プロジェクトとしては)意味がないと思います。

2番目に関しては、他の人のプロジェクトが固まっていない状況でそれを全面に 押し出すのは難しいので、特待生になってからプロジェクトを当初のものから変 更してそうするのはありですが、最初からそれでは他力本願と言われても仕方な いですね。ちなみに NAIST の学内プロジェクトは9月に淡路島で模擬国際ワーク ショップを開き、全員英語でのプレゼンテーションが義務付けられています。英 語での情報発信を手伝う系は恐らく評価が高いです。

英語のサイトを作って海外に発信するというのもうまく言えばいけると思いま す。過去に NAIST のサイトの SEO (検索エンジン最適化をするというプロジェクトで特待生に通った 人がいます(が結局調査を半年しただけで彼はプロジェクトを変えました。ある 意味予想通りでしたが……)。どちらかというと技術的・語学力的なことより政治 的な問題(対外的に出すものだと、チェックをどうするかとか、誰が責任者にな るとか)だったりするので、あえてこれを押すとはまる可能性もありますが……

12通目の手紙(2008年7月7日) -- 特待生試験対策 (3)

> 英→日が役に立たないというのは、(僭越ながら^^;)反論の余地があると思います。
> ほとんどの日本人にとって、英語より日本語の方が格段に読みやすく、日本語版に
> 記事があれば、そちらが参照されます。
> ですので、日本語版を修正して質を高めておくことは、有益だと思います。

いえ、全く役に立たないと言っているわけではない(お書きになっているように 日本語版に記事があれば日本語版を参照するのは当然)ですが、かける労力とで きたもののインパクトを考えると、もったいないんじゃないか、ということで す。たとえばそれなりのコーパスを作るにも10万円でできたら破格ですが、10億 円投じてそこそこのものしかできなかったら「あんなにお金かけたのに」と言わ れますよね。

ないよりはあったほうがいいのは確かですが、どれくらい作業しなければならな いのか(人月)という見積もりがあったほうが説得力増しますね。

チームを組んで作業に当たるという意味では東大にいたとき「東大 Fink チーム」 というのを組織して、Fink という Mac での Unix 関係のソフトウェアを楽 にインストールできるプログラムのメンテナンスをしていたのですが、あれが感 謝されたのは、日本で主に使うものだとしても世界中の人が使えるものだからで した。(実際バグレポートなどは日本語で来るものより英語で来るもののほうが 圧倒的に多いです)

相手は日本人でなくてせめて日本語を読み書きする外国人にしたほうがいいと思 いますが、Wikipedia 翻訳プロジェクトの欠点は、英語に記事があるものを日本 語に訳したところで、英語を読める人は英語を読むだろう、という点です(そう いう意味では日本語しか使わない日本人しか相手にしていない、という点で、波 及効果が限られます)。情報系の記事なら別に Wikipedia を参照しなくても検索 すればたくさん出てくるわけで、入門的な記事を書きたければ前述のように大学 院生の視点から高校生や学部生向けのテキストを書いたりするほうが(原本が Wikipedia だったとしても)重要ではないか、と思うわけです。

13,14通目の手紙(2008年7月18,19日) -- 合格の知らせ

# 入試が終わってしばらくして、無事合格(特待生にも内定)した、との連絡を受けました。

> NAIST一般入試・特待生選抜とも合格することができました。
> これで、ほぼ間違いなくNAISTに進学することになると思います。

おめでとうございます。特待生は1回目入試といえど倍率も高いので、特待生に 選ばれるとはすごいですね。

> 小町さんに何度もいただいたご指導が、すごく大きかったです。
> (それ以前に、小町さんの存在がなければ、東大からNAISTという
> 進路を選ぶ勇気はなかったかもしれません)
> 本当にありがとうございました。

確かに東大から NAIST という進路はあまりないので、参考になったのであれば よかったです。2年間でよくも悪くも人生変わると思いますので、このチャンス を活かして行きたい方向に舵を切ってください。

特待生であれば特待生飲み会・歓迎会・忘年会などこれまで年4回程度開 かれているので、違う研究室でも顔を合わせることはあると思います(そういう 集まりには一切顔を出さない、ということでもなければ……)。お金(研究費)の使 い方なども知らないと何を買っていいのか分からなかったりするので、入学後機 会があれば聞いてください。

あとは卒論だけですね。どちらの先生が指導教官か分かりませんが、卒論は悔い が残らないように好きなテーマで思いっきり書いてください。完璧を期して筆が 進まず卒業できないとせっかくの特待合格もふいになってしまうので、まずは卒 業が第一優先で、次に内容、という順番ですけどね(科哲の大学院に進学する人 でなければ、内容で落とされたりすることはないと思いますが……)。学部生活の 総決算だと思って、あと文系の論文はこれで人生最後かもしれないので、ありっ たけの知識と労力を総動員して書くといいですよ。

あと、就職希望だそうであまり関係ないかも分かりませんが、一応博士後期課程 に進学する可能性があるのであれば、論文誌が1本でもあると気持ち違う(理系で は分野違うところの業績は基本的に評価されなくても文句言えないので、自分の 気持ちの問題ですけど)ので、卒論をベースに論文誌か学内紀要に投稿されるこ とを目指して書くといいんじゃないかと思います。

ではでは、これから夏本番ですが、これから数年奈良での生活になると思います ので、東京最後の夏楽しんでください。

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Mamoru Komachi <komachi--at--is.naist.jp>
Computational Linguistics Laboratory
Graduate School of Information Science
Nara Institute of Science and Technology