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年報Lingua巻頭言/2011

(研究室年報「LINGUA」2011の巻頭言から)

 2011年を思い返して,最も大きい出来事は,やはり3.11の東日本大震災です.松本はその時奈良の研究室にいましたが,揺れを感じ,テレビをつけたところ,続々と入ってくる被害情報や映像に言葉が出ませんでした.前年に東北大学に移動したばかりの乾さんの研究室は建物が使えなくなるほど大きな被害だったのですが,メンバーの皆さんも無事でなによりでした.9月には台風12号による豪雨のため,奈良県南部の十津川村を中心に大きな被害が出ました.私たちの地区は,どちらの災害の影響も受けず,逆に申し訳ないような気持ちです.東日本大震災の直後に自然言語処理の多くの若手研究者が立ち上げた ANPI NLP などの素早い活動には感動しました.

 松本にとっては,年始早々に,4月からの副学長就任の打診が来,その任に相応しくないと固辞しようと思いましたが,退職された前任者の残務期間の2年間だけということで引き受けることにしました.同時に,附属図書館と情報科学センターが統合された総合情報基盤センター長も役職指定のような形で拝命することになり,さすがに色々と時間を取られることとなりました.研究室のスタッフや学生諸君には申し訳なかった1年となりました.

 2011年3月には,それまで参加していた大きなプロジェクトが同時に終了となり,4月からは新しい科研費を得て,再び基礎的なテーマを中心に活動を行なうことになりました.応用としては,小町助教が率いてくれることになった言語教育勉強会のメンバーがどっと増えて,活況を呈してきました.言語教育に限らず,人が物を学ぶことへの支援というテーマは今後益々重要性と実現性を増すと思います.

 4月には多くの修士課程学生が本研究室を希望してくれました.新入生配属に先立って12名という多めの定員を想定していたのですが,それを上回る学生が希望してくれ,初めて何名かの希望者に他の研究室に回ってもらうという事態になりました.これまで,自然言語処理の研究を希望している学生はすべて受け入れるとしていたのですが,申し訳ないことになってしまいました.

 10月には,本学の創立20周年記念式典が開催されました.本学のI期生が実際に入学したのは18年半前の1993年4月なのですが,大学自体はその1年半前に創設され,準備が進められたのでした.松本自身は更にその数カ月前から学生受け入れへ向けての準備委員会に関わっていたので,20年という節目には感慨深いものがあります.iPS 細胞で一躍有名になった山中伸弥京大教授の記念講演会が20周年式典の中であり,奈良先端大で過ごされた助教授・教授時代を本当に懐かしそうに話されたのが印象的でした.若手が思うがままに研究し,育っていく場とする本学の最も重要な特徴を体現された顕著な例だと思いました.

 12月には,ちょうど8年間,本研究室の助手・助教を務めて下さった浅原君が国立国語研究所准教授として栄転されました.学生時代から考えると,本研究室の初期の頃から大変な貢献をしていただきました.多くの日本人学生,留学生を指導し育ててもらいました.学生を時には厳しく時には優しく,彼らに慕われる理想的な研究スタッフでした.研究と学生指導に限らず,計算機回り等の多くの雑用を進んでこなしてもらったことにも本当に感謝しています.新しい職場での活躍を心より祈ります.

 雑用にかまけている松本の傍らで,スタッフ,学生諸君は様々な成果を挙げてくれました.5月の NL 研と SLP 研の合同研究会の学生セッションで,林部君と岡君が学生奨励賞を,そして,小町助教と東研究員の昨年度の論文に対して人工知能学会から論文賞を同時受賞しました.他にも学生諸君がいくつもの発表賞を受賞しました.一方,暮れになって,創設されたばかりの ACL Fellow の称号贈呈の打診が松本にあり,大変名誉なことに最初の17名の ACL Fellow の一人として選んでいただくことになりました.授賞理由は古い研究テーマであり,まだまだ何かやらねばという気持ちにさせてくれました.

 2010年の研究室の活動費については,国立大学法人運営費交付金,特別教育研究経費 (アンビエント環境知能研究創設事業),文部科学省科学研究費補助金 (基盤研究(A),基盤研究(C),若手研究(B),特別研究員奨励費),情報通信研究機構 (NiCT) から援助をいただきました.国立国語研究所からは共同研究プロジェクトでの支援をいただきました.また,財団法人テレコム先端技術支援センター SCAT 研究費助成,KDDI 研究所,NTT コミュニケーション科学基礎研究所,Google,ヤフー (株) より様々な形で援助をいただきました.関係者各位に深く感謝します.

 最後に,本年報の編集作業に当たってくれた学生諸氏にこの場を借りて感謝します.

2012年4月8日
松本裕治